2016年11月24日木曜日

ミッキー、ビッキー

 「他民族の言葉を聞き取ったとき、その民族にはない発音もありますから、表記しようとすれば微妙な誤差があらわれます。明治時代の人はアメリカンをメリケンと聞いた。だから小麦粉のことをメリケン粉といい、アメリカを米国と書くわけです。イギリスはエゲレス、英国ですが、これはイングリッシュを聞き取ったものでしょう。日本人のニッポンという発音は英国人にはジャパンと聞き取られた。これは「日」の呉音が「ニチ」、漢音が「ジツ」であることを考えれば簡単に理解できます。ニッポン→ジッポン→ジャパンというわけです。英国人の耳は、日本人より中国北方人に近いようです。ポルトガル人がヤポンと聞き取ったのも、邪(ジャ)が「ヤ」という音を併せ持つことから類推できます。ニッポン→ジッポン→ジャポン→ヤポンというわけです。ポンの方にアクセントがあり聞きやすかったようです。魏志倭人伝の地名や人名も、中国北方人が当時の日本人の言葉を聞き取って漢字表記したものですから、誤差を考慮に入れて読む必要があります。」

 こういう文をホームページのトップに出していたことがある。ところが、ずっと古く、マルコ・ポーロのジパングがあるぞ。中国人の発音を表記したそれが語源だろうというメールが来た。チェック時にまったく考慮していなかったので、あわててこの文を引っ込めた。

 しかし、最近、十六世紀には日本人が東南アジアへ進出していたし、遣欧使節まで派遣されたことに気付く。ヨーロッパ人が直接日本人と話す機会があったわけで、英国人の日本語聞き取りはともかく、ポルトガル、スペインなどに、この頃あらたにジャパンが生まれたのではないかと疑問を感じだしたのである。マルコポーロのジパングがどういう広がりをもって受け入れられていたか、ヨーロッパ各国の文献に日本が現れるのはいつからか、ポルトガル、スペイン等の船員なり宣教師なりの日本に関する報告にどう書き表されているかなどの調査が必要だが、残念ながらその力はない。

 結局、何が言いたかったかというと、発音の聞き取り表記には誤差がつきもので、それを頭の片隅に入れておかねばならないということである。倭語の漢字表記もその一例で、あんまり文字の発音に忠実に考えると、かえって真実を失いかねない。「まあ、こんなものだろう。」といういい加減さもまた必要なのである。

 関東在住の長い学生時代の先輩が「バック、バック」というので、「なんかいな(標準語翻訳=何のことだろう)」と思えば、マックのことだった。(マクドナルドじゃないよ、マッキントッシュだよ。)北方系縄文人の濃厚な関東以北と南方系弥生人の濃厚な関西は、言葉に関する耳の感性が少し異なっているのかもしれない。中国の漢音のバビブベボは、南方の呉音ではマミムメモになる。その対応とまったく同じ感じなのだ。もし、この仮説が成立するなら、関東人の発音するミッキーはビッキーに聞こえるはずなのだが、まだ確認できていない。私の聴力には疑問符が付くから、個人的な聞き取り精度の問題かもしれない。当然、歴史文書の中にもその問題はつきまとう。

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