2016年11月19日土曜日

金印偽造説

 以前、日経新聞「エンジョイ読書」という欄で見つけた井上章一という人の文章、「古語の謎」という本の書評である。
「かって、中国の漢帝国は日本列島にあった奴国と国交をもっていた。福岡県の志賀島では、そのあかしともいうべき金印が、18世紀末の江戸時代に見つかっている。と、そう私たちは学校の授業でならってきた。この金印については江戸期にでっちあげられたものだという説もある。私はそんな偽造説をうたがってきたが、この本を読み考えをあらためた。今は9割方まがいものであったろうと、思うようになっている。江戸時代には、いわゆる古学が発達した。『万葉集』や『古事記』を読む。それが書かれた時代の読み方をさぐりだし、往時の人々と同じ気持ちになって、あじわいきる。そういう古典読解の機運が高まった。と同時に『万葉集』などと同じ言葉づかいで和歌を詠む人も、ふえてくる。万葉調で書く文章家もあらわれた。擬古文の偽書も、つくられだす。そんないにしえぶりがはやった時代なのである。例の金印が掘り当てられたのは。……」

 江戸末期の国学隆盛期に掘り出されたから金印は偽物だそうだ。あんまり単純すぎるではないか。「奴国に印綬をさずけた」という記述があるのは後漢書で、日本の古文ではない。金印の印面には「漢の委の奴国王」と彫られていて、奴国が後漢の冊封体制に組み込まれていることを示している。これは、日本が神代から独自の文化を発展させてきたと考えたい国学の徒のプライドを逆なでするものだ。逆に、「漢」が入っていることで本物だと言える。私が当時の国学信奉者で偽物をつくらせるなら「奴国王璽」というような文字を彫る。金印は2.3cm角で漢代の一寸に合わせて作られている。考古学のない江戸期にはこんなことは知られていない。一寸3cmだ。金は高価なものである。篆刻書体はデザイン文字で、金印は明らかに専門家によりデザインされている。デザイナーが金印を作れるかというとそうではない。溶けた金を流し込む型をつくらねばならない。つまり、専門職人のチームが必要なのである。それに手間賃を払わなければならない。金の価格+製作費用が必要なのである。紙や石に偽文章を書いたり彫ったりというのとはレベルが違って個人的な仕事では済まない。誰が資金を出すのだ?口封じはどうする?
 ともかく歴史学や考古学の知識をまったく持っていないのに書評とは?こんな浅薄なのを出すと、「古語の謎」という本を持ち上げて紹介するはずなのに、かえって貶める結果になるのではないか。それとも「古語の謎」に金印に関するそういう内容があるのだろうか?それならたいした本じゃない。

金印に興味のある人はホームページhttp://www.eonet.ne.jp/~temb/15/kinin.htmの「魏志倭人伝から見える日本。ファイル2、北九州の各国。奴国と金印」や、「魏志倭人伝の風景、奴国」の項へ

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